
ローンの残っている住まいを売却して、新居を購入したい。けれど、不動産の売却額と自己資金(預貯金など)だけでは残っている。
そんな時に、活用を検討したいのが「住み替え(買い替え)ローン」です。
住み替えローンを使えば、現在住んでいる不動産の住宅ローン残高と新居を購入するための住宅ローンをまとめて借り入れることができます。
つまり、住み替えローンを活用することで都内から田舎への住み替えや新しい住居への住み替えが可能になります。
しかし、初めての住み替えローンだと、どのように利用すれば良いのか分からない人も多いかと思います。
そこでこの記事では、時系列順で住み替えローンを活用するまでの流れを紹介しています。
分かりやすい図を用いて解説している為、初めての方でも簡単に理解することができます。
ぜひ、住み替えローンを活用する際の参考にしてみてください。
目次
1. 絶対に押さえておくべき「住み替えローン」の基礎知識
まずは、住み替えローンを検討するにあたり、絶対に押さえておくべき基礎知識を2つご紹介いたします。
1-1. 「住まいの売却額+自己資金<住宅ローン」となる場合に、住み替えローンを活用すべし
住み替えローンの活用がオススメなのは、住み替えをすることは大前提で、さらに“不動産の売却額や自己資金では、現在所有している不動産のローンを完済できない場合”です。
不動産の売却額や自己資金で住宅ローン残額を完済できるのであれば、住み替えローンを活用するのではなく、まずはローン残額を完済し、新たに住宅ローンを組むのがよいでしょう。
※不動産を売却するためには、住宅ローン残額を完済し、不動産に設定されている抵当権を抹消する必要があります。
もちろん、「手元にある程度の資金を残しておきたい」といった場合に、住み替えローンを活用するという考え方もありますが、住み替えローンは「住宅ローン残額+新たな住宅ローン」となるため借入額が大きくなりがちで、さらに、不動産の売却と新居購入を同時に進める必要がある(詳細は2章を参照)など、留意点があることもまた事実です。
また、住み替えローンでは、担保以上の融資を受けることになる(住宅ローン残額に担保はない)ため、審査は通常の住宅ローンよりも厳しく、場合によっては、住み替えローンを活用したいと思っていても、そもそも審査が通らない可能性もある、ということは頭に入れておきたいところです。
住み替えローンを活用するかどうかは、上記の留意点等も踏まえたうえで決めましょう。
ちなみに、住宅ローンの残っている不動産を売却する方法として、「無担保ローン」という手もあります。詳細は、下記の記事を参照ください。
[参考]住宅ローンが残っている不動産を売却する方法【プロが解説!】
1-2. 住み替えローンを活用する場合、借入額と返済期間の検討が重要
住み替えローンを活用するならば、「借入額」と「返済期間」について、よくよく検討することが重要です。
まず、借入額については、“借りられるからといって、むやみに増やさない”ということを意識しましょう。住み替えローンの場合、「住宅ローン残額+新たな住宅ローン」と借入額が大きくなりがちです。借入額が大きくなると、当然ながら、それだけ返済額も増え、負担が大きくなります。
借入額が大きくなったときには、返済期間を延ばすことで月々の返済額を下げるという考え方もあるかと思いますが、とりあえず延ばせるだけ延ばすといった返済計画を立ててしまうと、後々大変なことになるかもしれません。たとえば老後70歳、80歳になっても住宅ローンを返済し続けられるかというと、どうでしょうか。
特に老後にまで返済期間を延ばしたい場合は、今後の資金計画や老後の生活まで考えて、返済できる見通しがあるのか、現実的に考えることが重要です。
2. 「住み替えローン」を活用した住み替えの流れ
ここでは、住み替えローンを活用する場合、“実際にどういう流れで住み替えをすることになるのか”を、時系列で解説してまいります。
※「新居の購入」の流れは、購入するのが注文住宅か、建売か、中古住宅か等によって異なります。
住み替えローンを借りるには「所有している不動産の売却」と「新居の購入」の決済を同時に行なう必要があるため、所有している不動産の売却と、新居の購入は、同時に進めていかなければなりません。
具体的な住み替えの流れは上記図の通りですが、「所有している不動産の売却」を少し先行させるつもりで動くのがオススメです。売却の目途が立つと、おのずと、「売却額」や「売却日」の見通しも立つため、「どのぐらいのお金を新居の購入にあてられるか」や「いつまでに新居の購入をする必要があるのか」が見えてくるため、より現実的に住み替えを進めることができます。
「新居の購入」を先行させるのがNGということではありませんが、「購入したい物件は見つけたが、売却の目途が立たない」となってしまっては、どうしようもないため、住み替えローンを活用する場合の住み替えでは、「所有している不動産の売却」を先行させる方が間違いないでしょう。
そして、所有している不動産の売却と新居の購入のスケジュール調整を考えれば、不動産の売却と新居の購入は同じ不動産会社に依頼してお任せしてしまうのがオススメです。とはいえ、同じ不動産会社に依頼しなければ、住み替えローンが活用できないというわけではありません。不動産の売却と新居の購入を別の不動産会社に依頼する場合は、住み替えローンを活用したい旨を各不動産会社に伝えて、「所有している不動産の売却」と「新居の購入」の決済が同時にできるよう、調整していけば問題ありません。
不動産売却の流れを知りたい人はこちら
[補足]先に目ぼしい新居が見つかった場合は、「買い換え特約」をつけて新居を押さえるべし
たとえ「所有している不動産」の売却を先行して進めていても、先に目ぼしい新居が見つかることもあるでしょう。その新居に、住み替えローンを活用して住み替えるためには、いち早く所有している不動産の買い手を見つける必要があります(住み替えローンを借りる場合、「所有している不動産の売却」と「新居の購入」の決済を同時に行なう必要があるため)。
しかしながら、所有している不動産を売却したい期日までに売却できるかどうかは、売却活動をしてみないとわからないというのが実際のところ。運よく買い手が現れればよいのですが、いつ現れるのか、そもそも現れるのかどうかも、不透明です。
そこで、リスクヘッジとして検討をオススメしたいのが「買い換え特約」です。
「買い換え特約」とは
“所有している不動産を期限内に売却できなければ、契約を白紙にできる”といった特約事項を新居購入時の契約に買主と売主の合意により付帯できる。契約が白紙となると、手付金などは返金される。
目ぼしい新居を見つけて、どうしても押さえておきたいという場合は、ぜひ、この買い換え特約を検討してみてください。
ただし、買い換え特約は、買主に一方的に都合の良い特約であるため、特約の付帯自体を(新居として購入予定物件の)売主に断られることも少なくありません。まずは、買い換え特約がつけられるかどうか、不動産会社に相談してみるのがオススメです。
3. 知って得する!住み替え時に活用したい住宅ローン減税&税金の優遇措置
住み替え時に活用したい「住宅ローン減税」と「不動産の売却後にかかる税金の優遇措置」について、ご紹介します。
3-1. 住み替えローンも住宅ローン減税の対象
ずばり、住み替えローンも、住宅ローン減税の対象です。要件を満たせば、住宅ローン減税を受けることができます。
ちなみに、住宅ローン減税とは、「住宅ローンを借り入れて住宅の新築・取得又は増改築等をした場合、年末のローン残高の1%を所得税(一部、翌年の住民税)から10年間控除する制度」のことです。
なお、住宅ローン減税を受けるためには、確定申告をする必要があります。会社員(給与所得者)の場合は、初年度は確定申告が必要ですが、その次の年からは年末調整での申請が可能となります。
[参考]確定申告の必要書類 ※一部抜粋
■初年度
・確定申告書A・B(会社員はAを選択)
・(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
・住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
・家屋|登記事項証明書(原本)、請負契約書の写し、売買契約書の写し
・敷地|登記事項証明書(原本)、売買契約書の写し、敷地の分譲に係る契約書の写し
・個人番号カード(もしくは通知カード+運転免許所/パスポート、もしくは住民票の写し)
・給与所得の源泉徴収票(会社員の場合) ほか
■翌年以降
(会社員の場合)
・給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
・年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等控除証明書
・住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書 ほか
(自営業者の場合)
・確定申告書B
・(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
・住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書 ほか
[参考]国土交通省HP「住宅ローン減税」
[参考]国税庁HP「住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」
3-2. 不動産の売却後にかかる税金|優遇措置が受けられることも
不動産を売却すると、「住民税」「所得税」「復興特別所得税」などの税金がかかります。ただし、売却額や諸条件によっては、そもそも税金がかからなかったり、税金控除が受けられたりすることもあります。
基本的には、不動産を売却後に税金がかかるのは「利益が出た場合のみ」。ちなみに、「利益が出た場合」確定申告は必須です。
[利益が出た場合|税金の優遇措置]
マイホームを売却して「利益が出た場合」、受けられる可能性のある税金控除は下記の3つです。
■マイホームを売却|3,000万円の特別控除の特例
マイホームを売却した場合、最高3,000万円の控除が受けられる。
[参考]国税庁HP「マイホームを売ったときの特例」
■所有期間10年超のマイホームを売却|軽減税率の特例
マイホームを売却した年の1月1日時点でマイホームの所有期間が10年を超えている場合に受けられる特例。上記、マイホームを売却した場合に受けられる3,000万円の特別控除を適用した後の「課税譲渡所得金額」に対して、軽減税率で税額を計算できる。
[参考]国税庁HP「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
■マイホームの買換え(交換)の特例
マイホームを売却し、新たにマイホームを購入した場合に、一定の要件に該当する場合は、譲渡益の課税を将来に繰り延べることができる。
[参考]国税庁HP「特定のマイホームを買い換えたときの特例」
※3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、併用できます。ただし、3,000万円の特別控除の特例とマイホームの買換え(交換)の特例は併用不可。同じく、軽減税率の特例とマイホームの買換え(交換)の特例も併用できません。
不動産を売却して「損失が出た場合」は、住民税・所得税・復興特別所得税などの税金はかからず、確定申告の義務もありません。ただし、確定申告をすることで、税金の優遇措置を受けられる可能性があります。
[損失が出た場合|税金の優遇措置]
マイホームを売却して「損失が出た場合」、受けられる可能性のある税金控除は下記の1つです。
■マイホームを売却して、新しくマイホームを買い換えた場合の特例
売却したマイホームの譲渡損失の金額について、損益通算および繰越控除できる。
[参考]国税庁HP「マイホームを買換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」
不動産売却後にかかる税金について知りたい方におすすめ
[要注意]「住宅ローン減税」と、「3,000万円の特別控除の特例」「軽減税率の特例」は、併用できない!
住宅ローン減税(控除)の要件には、下記の記載があります。
居住の用に供した年とその前後の2年ずつの5年間に、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例など(租税特別措置法31条の3第1項、35条 1項(同条3項の規定により適用する場合を除きます。)、36条の2、36条の5若しくは37条の5又は旧租税特別措置法37条の9の2)の適用を受けていないこと。
つまり、3-1の「住宅ローン減税」と、3-2の不動産の売却後にかかる税金の優遇措置(利益が出た場合)の「3,000万円の特別控除の特例」「軽減税率の特例」を併用して受けることはできないということです。
※所有している不動産の売却時期と、新居の購入時期によっては併用して受けられることもありますが、住み替えローンを借りる場合は、売却と購入を同時に行なう必要があるため、併用不可となります。
ちなみに、不動産の売却後にかかる税金の優遇措置(利益が出た場合)「マイホームの買換え(交換)の特例」、不動産の売却後にかかる税金の優遇措置(損失が出た場合)「マイホームを売却して、新しくマイホームを買い換えた場合の特例」については、住宅ローン減税との併用可です。
「住宅ローン減税」と、「3,000万円の特別控除の特例」「軽減税率の特例」のどちらを受けるのがお得かは、場合によって異なりますので、それぞれ計算してみるのがオススメです。
まとめ
住み替えローンについて解説してまいりましたが、いかがでしょうか。
「ローンの残っている不動産を売却して住み替えたいけれども、ローンを完済するためのお金が足りない…」という場合に、住み替えローンは非常に有効です。
ただし、住み替えローンは、現在所有している不動産のローン残額と、新居を購入するための住宅ローンをまとめて借り入れることになるため、借入額が大きくなり返済額も増えるなどの留意点もあります。
そこで、住み替えローンを検討中の方は、住み替えローンを活用するのがベストな選択なのかどうかを改めてきちんと考えるところからはじめるのがオススメです(1-1を参照)。
そして、住み替えローンの活用を決めた場合は、借入額や返済期間をよくよく検討してください(1-2を参照)。さらに、住み替えローンを活用してうまく住み替えるためには、流れを頭に入れておくことも重要です(2章を参照)。
ぜひご紹介した情報を参考に、戦略的に住み替えを進めてください。