相続財産に不動産を含む場合の遺言書の書き方を解説!【作成事例付】

不動産を含む財産は、その所有者が亡くなると家族や親族が相続という形で引き継ぐのが一般的です。
遺された家族は、遺言書で指定されていない限り、その大小に関係なく分割方法について相続人全員で話し合う必要があります。

一方、不動産は現金に比べて分割しにくく、相続においてトラブルの種となることが少なくありません。

このことを知っている方、どこかで聞いたことのある方は、誰にどのように相続させるのかをあらかじめ遺言書によって決めておいたほうがよいと感じている方も多いでしょう。
しかし、遺言書はルールを知って書かなければ無効になることもあるため、注意が必要です。

この記事では、不動産を所有している方に向け、不動産を相続財産に含む場合の遺言書の作成方法について、具体的な作成事例を掲載しながら解説します。

1.遺言書の書き方

人が亡くなると、その方が持っていた財産を誰が引き継ぐのか決めなければなりません。
誰が財産を引き継ぐのかについては、法律で「法定相続人」が決められています。亡くなった方が遺言書を遺していた場合、その遺言書通りに手続きを進めていくことになります。
ただし遺言書には書き方があり、決まりを守って作成しなければ効果を発揮しないこともあるという点に注意が必要です。

遺言書の種類や書き方などについて確認する前に、まず根本的な考え方である「法定相続人」や「相続と遺贈の違い」などについて見ていきます。

1-1.法定相続人とは

法定相続人とは法律で定められた相続人のことで、遺言書がない場合は、法定相続人が財産をどのように分けるか話し合います。これを遺産分割協議と呼びます。

法定相続人にはそれぞれ法定相続分が決められており、以下のようになっています。

法定相続分
子がいる 子がない 子も父母等もない
法定相続人 常に 1/2 2/3 3/4
第一順位 1/2
第二順位 父母等 1/3
第三順位 兄弟姉妹 1/4

また、法定相続には順位が定められています。子がいる場合には第一順位の子が、子がいない場合は第二順位の両親が法定相続人となり、子も親もいない場合に初めて兄弟姉妹が法定相続人となります。
例えば被相続人に妻と子2人がいるようなケースでは、妻は1/2、子2人はそれぞれ1/4ずつが法定相続分となります。

1-2.相続と遺贈の違い

正確に表現すると、法定相続人が亡くなった方の資産を受け継ぐことを「相続」と呼び、遺言書により法定相続人以外の方が資産を受け継ぐことを「遺贈と呼びます。
両者は言葉の違いだけでなく、後々の手続きに違いがあることもあるため注意が必要です。

例えば借地権を相続したようなケースでは、相続人は相続後、地主に通知するだけで済みますが、遺贈の場合は借地権を通常の方法で売却するのと同様、事前に地主の許可が必要となります。
亡くなった方から資産を受け継ぐ場合は、それが相続なのか遺贈なのかはっきりしておく必要があるでしょう。

2.遺言書の種類と保存方法

ここからは、遺言書について見ていきます。
まず、遺言書には3つの種類があり、それぞれ取り扱いが異なります。

  • ・自筆証書遺言
  • ・公正証書遺言
  • ・秘密証書遺言

2-1.自筆証書遺言

自筆証書遺言は、その名の通り自分で書いた遺言書のことで、一般的な遺言書のイメージというとこの自筆証書遺言であることが多いでしょう。
いつでも自分で書けるため手軽さがありますが、遺言者が遺言全文・日付・氏名を自筆(手書きで作成)し、押印をするなど、しっかりルールにのっとって書いたものでないと無効となることもある点に注意が必要です。
また、遺言書を作成した後は、一般的には自身で保管します。
自筆証書遺言の実行には「検認」が必要なため、被相続人が亡くなった際、すぐに開封せず家庭裁判所に検認の申し立てを行います。

2-2.公正証書遺言

公正証書遺言とは、2人以上の証人が立ち会いのもと、公証役場で公証人が遺言内容を聞き取り、作成されます。作成した遺言書は公証役場で保管されるため、遺言の内容、保管方法ともに確実性の高い方式だといえます。

2-3.秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、自分で作成した遺言書を証人2人以上とともに公証役場に持ち込むものです。
公証役場に持ち込むと、公証人に遺言書の存在を確認してもらえますが、遺言書の内容を読み上げることはしないため「秘密証書遺言」と呼ばれます。
自筆証書遺言と同じく、自分で書いた遺言書がルールにのっとったものでないと無効になってしまうほか、遺言書の存在を確認してもらった後は自身で保管する必要があるため、保管の方法に注意が必要となります。
また、遺言の実行には「検認」が必要なため、被相続人が亡くなった際、すぐに開封せず家庭裁判所に検認の申し立てを行います。

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
遺言書作成者 本人(被相続人) 公証人 本人(被相続人)
証人 不要 2人 2人
費用 無料 有料 有料
保管 本人(被相続人) 公証役場 本人(被相続人)

2-4.相続人が遺書を見つける方法

相続が開始したときに問題となることが多いのが、遺言書の有無とその場所です。
公正証書遺言であれば公証役場に保管されているため、公証役場に問い合わせれば心配ないでしょう。
秘密証書遺言の場合、公証役場に問い合わせることで存在の有無を確認することができますが、保管場所については分かりません。
また、自筆証書遺言については、家族に遺言書の存在を伝えていない場合保管場所も分からなければ、遺言書の有無も分からないはずです。

ただし、2020年7月に遺言書保管法と呼ばれる法律が施行されると、自分で書いた遺言書が法務局で保管できるようになります。
自筆証書遺言では、どこに遺言書があるか分からないという問題が生じることがありましたが、この制度を利用すれば安全に保管できるようになります。
法務局で保管する場合は、検認は不要になります。

参考:法務省 法務局における自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度について

3.不動産を相続させるときの遺言書の作成方法

ここからは、相続財産に不動産が含まれている場合における、具体的な遺言書の書き方について見ていきましょう。
なお、公正証書遺言の場合は公証人が遺言内容を聞き取り、遺言書を作成するため、ここでは自分で遺言書を作成する自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合のみを想定しています。

3-1.まずは登記事項証明書を取得しよう

不動産の情報については、遺言書に正確に書き写す必要があります。
誤りのないよう、まずは法務局に行き、不動産の登記事項証明書を取得するようにしてください。

3-2.遺言書の作成事例

ここからは遺言書の具体的な作成事例を見ていきましょう。

まず不動産を相続させるときは、不動産の情報について以下のように記載します。

1.○○に下記の財産を相続させる
所  在   ○○市○町○丁目
地  番   ○番○
地  目   宅 地
地  積   ○○・○○㎡

所  在   ○○市○町○丁目 ○番地○
家屋番号   ○番○
種  類   居 宅
構  造   ○○造○○ 〇階建
床 面 積   〇階 ○○・○○㎡
      〇階 ○○・○○㎡

上記の内容を、法務局で取得した登記事項証明書の内容と相違がないように記載します。

3-3.共有持分がある場合の作成事例

次に、共有持分がある場合の遺言書の作成事例を見てみましょう。

1.○○に下記の財産を相続させる

所  在   ○○市○町○丁目
地  番   ○番○
地  目   宅 地
地  積   ○○・○○㎡
遺言者の持分〇分の〇

所  在   〇〇市○町○丁目 ○番地○
家屋番号   ○番○
種  類   居 宅
構  造   〇〇造○○ 〇階建
床 面 積   〇階 ○○・○○㎡
       〇階 ○○・○○㎡
遺言者の持分〇分の〇

基本的には、一般的な不動産遺言書の書き方に加え、持分を書く形と考えるとよいでしょう。

3-4.未登記の建物がある場合の作成事例

不動産は、建物が建っているものの建物部分については未登記だというケースがあります。
こうした場合、法務局に行っても登記事項証明書を取得できませんので、毎年役所から送られてくる固定資産税納税通知書を見て情報を記載してください。
ただし、固定資産税納税通知書に家屋番号は記載されていないため、未登記である旨を遺言書に書いておく必要があります

1.○○に下記の財産を相続させる
所  在   ○○市○町○丁目
地  番   ○番○
地  目   宅 地
地  積   ○○・○○㎡

所  在   〇〇市○町○丁目 ○番地○
家屋番号   未登記
種  類   居 宅
構  造   〇〇造○○ 〇階建
床 面 積   〇階 ○○・○○㎡
       〇階 ○○・○○㎡

3-5.その他の遺言書作成のポイント

自筆証書遺言と秘密証書遺言の作成時におさえておくべきポイントをまとめています

(1)全文を手書きで書く
財産目録はワープロなどでの作成が可能です。

(2)内容は具体的かつ正確に記載する
あいまいな場合は、無効になる可能性もあります。

(3)遺言執行者を指定しておくとよい
任意ですが、遺言の執行をスムーズにするためには必要です。

(4)日付と署名・押印を忘れずに行う
「吉日」などは不可。日にちも正確に記載してください。

(5)封筒に入れて封印し、わかりやすい場所に保管する
家族が見つけやすい場所がオススメです。見つけた家族が勝手に開封してしまわないように、家庭裁判所で検認してもらうよう記載しておくとよいでしょう。

3-6.公正証書遺言の作成方法

自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合、自分で遺言書を作成する必要がありますが、公正証書遺言の場合は必要書類をそろえて公証役場の日どりを予約し、証人2人と共に公証役場に足を運べば、公証人が遺言内容を書いてくれます。

なお公正証書遺言の必要書類とは、本人であることを証明するための本人確認書類や印鑑証明書・実印などです。

4.不動産を相続させる遺言書の注意点

ここでは、不動産を相続させる際の遺言書の注意点を見ていきましょう。

4-1.住所や地目に変更があったら?

遺言書の中に不動産の内容を記す場合、法務局で取得した登記事項証明書の内容通りに記載することをお伝えしましたが、遺言書を作成した後で住所の表記が変わるなどした場合はどうでしょう。新たに遺言書を作成し直す必要はあるのでしょうか。
この点については、住所や地目に変更があったとしても、登記事項証明書にその変更内容と変更前の内容が記載されているため、改めて遺言書を作成し直す必要はありません。

4-2.住所表記でなく地番表記

遺言書には不動産の所在地を記載する必要がありますが、ここで記載するのは住所ではなく「地番」となります。
普段、郵便物の届け先の指定などでは住所を利用しますが、土地には住所とは別にそれぞれ地番が付けられています。遺言書には、住所ではなくこの地番を記載する必要があるのです。

登記事項証明書に記載されている所在地は地番表記となっているため、そのまま記載すればよいのですが、住所と地番が異なるということは覚えておいたほうがよいでしょう。

コラム~遺留分に注意!~

遺言書を書くと、法定相続人以外の人に遺産を引き継いでもらうこともできます。
しかし、法定相続人には法定相続分以外に「遺留分」というものがある点にも注意が必要です。

遺留分とは、遺言等で自分の相続分が少なくなってしまった場合でも、自分の相続分であると主張できる割合のことを言い、それぞれ以下のように定められています。

相続人 全員の遺留分 相続人の遺留分
配偶者 子供 父母 兄弟
配偶者のみ 1/2 1/2 × × ×
配偶者と子供 1/2 1/4 1/4 × ×
配偶者と父母 1/2 2/6 × 1/6 ×
配偶者と兄弟 1/2 1/2 × × ×
子供のみ 1/2 × 1/2 × ×
父母のみ 1/3 × × 1/3 ×
兄弟のみ × × × × ×

例えば、妻と子2人がいる家庭で、法定相続人ではない知人に100%の財産を遺贈するという遺言書があった場合でも、妻は相続財産について1/4、子供はそれぞれ1/8を遺留分として主張することができます。
遺留分を主張するかどうかは相続人の自由です。しかし遺言書を書く際は、法定相続人の遺留分も考慮したうえで配分を決めておくと、余計なトラブルを避けることができるでしょう。

まとめ

相続財産に不動産がある場合の遺言書の書き方について、相続と遺言の違いや法定相続分の考え方などをお伝えしました。
不動産は個人の財産の中でも大きな割合を占めることが多く、相続の際は計画的に準備しておく必要があります。

遺言書にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なるため、違いを理解したうえで適切なものを選びます。
また、不動産について遺言書の中で触れるときは、登記事項証明書の内容を見ながら間違いのないよう記載します。遺言書を作成するときは、ぜひこの記事の内容を参考にしながら進めてください。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう